獣医の献立

家族の歴史は、毎日の献立とともにあった――

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ココナッツオイル  ~中鎖脂肪酸の話~

突然ですが、ココナッツオイルを買ってみました!!

2014080914002159b.jpg

早速試食してみます。味は・・個人的には好きだけど、ココナッツ臭がかなり強いので苦手な人はダメかもしれないですね。カレーに入れるとなかなかイケます!

ま、人の感想はどうでもいいです。犬猫の口に合うかどうかを知りたいので、我が家の子供たちにモニターをお願いしました。犬は二人とも「おいしい!おいしいい!」と喜んで食べてくれましたが、猫は好みが分かれるようです。
猫A:「あ、割とおいしい。ペロペロ」
猫B:「まあ食べれる。ぺろり。」
猫C:「なんじゃこりゃ!まずい!ペッペッ!」

今回はストレートで舐めさせてみたのですが、平均すればまあまあの許容性ですかね。苦手な子でもうまく他の食物と混ぜればいけるのではないかと勝手に思っています。(まだ試してはいませんが)

さてさて、なぜ本来犬猫の食い物でもないであろうココナッツオイルなぞを試食させられているのでしょうか?

ココナッツオイルは非常にユニークな油です。何がユニークかというと、他の一般的な植物油と違い、中鎖脂肪酸を多量に含んでいることです。中鎖脂肪酸は人では様々な健康効果が期待されており、今最も注目されている食品の一つです。これを獣医の献立にも取り入れられないかと試しているところなのです。

《中鎖脂肪酸とは何か?》
脂肪酸の分子構造は、単純に言えば炭素原子が鎖状につながったものです。すべての炭素原子に水素原子がくっついているものを飽和脂肪酸、部分的に水素がなく炭素間に二重結合があるものを不飽和脂肪酸といいます。中鎖脂肪酸はすべてが飽和脂肪酸に分類されるので、今回は飽和脂肪酸についてまとめてみます。

脂肪酸は炭素の数によってかなり性質が変わってきます。飽和脂肪酸を炭素数の少ないものから順に並べると

(C2)   酢酸
(C4)   酪酸
(C6)   カプロン酸
(C8)   カプリル酸
(C10)  カプリン酸
(C12)  ラウリン酸
(C14)  ミリスチン酸
(C16)  パルミチン酸
(C18)  ステアリン酸
(Cは炭素数)

いわゆる「お酢」は酢酸の水溶液です。水に溶けている酢のイメージしかないので、酢酸が脂肪酸だと言われてもピンとこないかもしれません。でもここは大事なポイント。脂肪酸は炭素数の少ないものほど水に溶けやすい性質(水溶性)があるのです。中鎖脂肪酸(以下MCT:medium chain triglycerides)に分類されるのはC8のカプリル酸とC10のカプリン酸、C12のラウリン酸ですが、これらの脂肪酸はある程度水に溶ける性質があることを覚えておいてください。(ただしココナッツオイルそのものは水には溶けません。オイルの中では遊離脂肪酸ではなく中性脂肪として存在しているからです。)

ココナッツオイルの脂肪酸比率はC8とC10であわせて約15%、C12を約50%含んでいます。全体で約3分の2がMCTです。一般的な食用油脂にふくまれる脂肪酸は、C16以上の長鎖脂肪酸(LCT)が主体で、MCTはほとんど含まれていません。

《MCTとLCTはどんなところが違うのか?》
まずは脂肪の消化・吸収からみていきましょう。
どちらの脂肪酸も、油脂の中では3分子の脂肪酸がグリセリンと結合した中性脂肪(トリグリセライド)として存在しています。消化の第一段階はこの中性脂肪を分解して脂肪酸とグリセリンに分けることです。胃液や膵液に含まれるリパーゼという酵素がこの仕事をしています。基本的にはMCTもLCTも同じように消化されるのですが、MCTは容易に3分子の脂肪酸とグリセリンに分解されるのに対し、LCTは2分子の脂肪酸と1分子のモノアシルグリセロール(脂肪酸1個とグリセリン)までしか分解できず、この状態で吸収されます。MCTの消化速度はLCTの約5倍と言われています。

腸の粘膜上皮細胞に吸収されたMCTは、そのまま遊離脂肪酸の状態で血液に入り(これが水溶性のなせるワザです)、門脈系を経て肝臓に運ばれます。一方LCTは粘膜上皮の中で中性脂肪に再合成され、キロミクロンという輸送のための脂質粒子にのせられ、リンパ管を経て全身に送られます。このようにMCTとLCTでは、吸収されたあとの輸送ルートとたどりつく臓器が違うのです。

(MCT) → 門脈(血管) → 肝臓
(LCT) → リンパ管 → 全身の組織(脂肪細胞を含む)

このような特性を踏まえ、MCTは脂肪の消化吸収に問題がある消化器疾患(腸リンパ管拡張症、膵外分泌不全症、etc)での使用が提唱されてきました。LCTをうまく消化吸収できない疾患なので、MCTをかわりに使おうというわけです。
しかし、イマイチ普及していないのが実情です。いくつかの理由があると思うのですが、まずこれらの疾患は軽症であれば単純に脂肪含量を減らした低脂肪食と薬物治療などの標準的治療で管理できます。また、MCTを使う目的は単純にエネルギーの供給であり、炭水化物やタンパク質にも同じ仕事はできるので、あえて高価なMCTを使う必然性がありません。

標準的な治療で管理できない場合には使用を考慮しても良い思いますが、ココナッツオイルはそれでも3分の1はLCTを含んでいるので、おそらくこの目的には不向きで、C8とC10だけを分離精製した純粋なMCTだけの製品のほうが良いかもしれません。ただし相当にマズイらしいですが。。。

そんなわけで獣医栄養学におけるMCTの立ち位置はなんとも微妙な感じだったのですが、ここにきてMCTの新しい使い方に注目が集まっています。


《ダイエット効果》
巷では「体に脂肪がつきにくい」をうたい文句にした、MCT含有の「ヘルシーリセッタ」という商品が人気のようです。実はMCTはペット用ダイエットフードでもすでに導入されています。それがこちら、ヒルズ社の「メタボリックス」シリーズです。



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(画像はヒルズホームページより転載)

原料にココナッツオイルが使用されているので、メタボリックスの「有効成分」はMCTであると推察されます。(なぜかヒルズ社は「代謝を活性化する」などの抽象的な表現ばかりで、具体的にMCTに言及しませんが。。)
私の経験上でも、メタボリックスにはかなりの効果を実感しています。患者さんからも痩せたという話も聞くし、何よりうちの猫もこれでダイエットしましたしね。特に猫用の缶詰がオススメです。味もかなり良いようです。

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さて、小難しい話を再び。今度は吸収されたあとの脂肪酸の代謝についてです。
キロミクロンによって組織に運ばれたLCTは、一部は筋肉などでそのまま利用されますが、あまったぶんは脂肪細胞に取り込まれそのまま貯蔵脂肪になります。一方、MCTは肝臓に運ばれてすぐに代謝されてしまうので、理屈の上では脂肪細胞と出会うことがなく、したがって貯蔵脂肪にならないのです。

脂肪酸代謝の基本メカニズム、俗に言う脂肪の「燃焼」は、ミトコンドリアで行われるβ酸化(ベータ酸化)という過程です。β酸化では脂肪酸を構成する炭素原子を2個ずつ切り離してアセチルCoAとし、エネルギーを産生します。β酸化の様式自体はLCTとMCTで違いはないのですが、エネルギーが十分にある状態ではLCTは細胞質で中性脂肪やリン脂質の合成にまわされてしまい、ミトコンドリアに入りません。LCTはエネルギー欠乏状態でないかぎり燃焼されることがないのです。一方MCTは栄養状態にかかわらず、問答無用にミトコンドリアに入り、強制的に燃焼されるという特徴があります。つまりMCTは非常に燃焼しやすい脂質であるといえるのです。

ではMCTをただ摂取すればやせるのでしょうか?答えはNoです。MCTとLCTを同時に摂取した場合、MCTのほうが優先的にエネルギーとして利用されるので、LCTの消費は減少し、貯蔵にまわされる可能性が高くなります。MCTを加えた分LCTは制限しなければなりません。食事内容を変えずにココナッツオイルをサプリメント的に加えただけではおそらくダイエット効果は期待できないと思います。一から食事内容を組み立てなおす必要がありますね。

そのうちメタボリックスに匹敵するような手作りダイエット食を考案するつもりですので、乞うご期待!


《認知症の治療・予防》
MCTは人のアルツハイマー病に効果があるとして、にわかに注目を集めています(※1)。
アルツハイマー病は脳の中にβアミロイドというタンパク質が蓄積し、神経細胞が変性する病気で、認知症の最も一般的な原因です。神経細胞は通常グルコース(ブドウ糖)をエネルギー源として利用していますが、アルツハイマー病では神経細胞がグルコースを利用することができなくなるのだそうです。しかし、グルコースは使えなくてもケトン体は使うことができます。

MCTはすぐにβ酸化されることは述べました。β酸化の結果生成されたアセチルCoAはアセト酢酸βヒドロキシ酪酸へ変換されます。これがケトン体です。特に神経細胞はβヒドロキシ酪酸をよく利用できるといわれています。

MCTは効率的にケトン体を産生できるので、変性してグルコースを使えなくなった神経細胞にエネルギーを供給でき、これによって認知症の症状を改善できると考えられています。

さて、犬にも認知症があります。犬でも人と同じようにMCTには効果があるのでしょうか?

ある報告では高齢犬にMCTを与えることで神経細胞のミトコンドリア機能が大幅に改善しており、アミロイドβやアミロイド前駆タンパクが減少していることがわかりました(※2)。また、高齢犬の食事にMCT加えると、血液中のβヒドロキシ酪酸の濃度が上昇しており、認知機能が改善したという報告もあります(※3)。

ふむふむ、人とおなじような現象がおきているようですね。まだまだこれから研究を進めなければならない分野ではありますが、期待はできそうな気がします。今のところ臨床的エビデンスはありませんが、ココナッツオイルは食品であり、特に有害な作用は確認されていないので、比較的気楽に使ってみてもよいのではないでしょうか?この場合は肥満でなければサプリメント的な使い方もアリかもしれません。

《最後に注意事項》
・肝臓病の場合はMCTの使用は控えるようにしましょう。機能的な肝細胞数が減少していると、MCTが処理しきれず抹消血液中にあふれ、肝性脳症を悪化させることが指摘されています。特に門脈体循環シャントなどの血管異常ではリスクが高いと言われています。
・コントロール不良の糖尿病の場合も使用不可です。MCTはケトン体に代謝されるので、ケトーシス、ケトアシドーシスを悪化させます。コントロールできている症例に関しては個人的に使用はアリだと思っていますが、素人判断は危険ですので専門家に相談してくださいね。



(※1)ココナッツオイルでボケずに健康  白澤卓二 監修 主婦の友社 (2014)
(※2)Induction of ketosis may improve mitochondrial function and decrease steady-state amyloid-beta precursor protein (APP) levels in the aged dog. Studzinski CM, et al. Brain Res. 2008 Aug 21;1226:209-17.
(※3)Dietary supplementation with medium-chain TAG has long-lasting cognition-enhancing effects in aged dogs.
Pan Y et al. Br J Nutr. 2010 Jun;103(12):1746-54.
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ココナッツオイルは猫に脂肪肝症を起こしますので注意が必要です。

ですってよ? | URL | 2015-01-30(Fri)18:48 [編集]


Re: タイトルなし

>ですってよ?さん

> ココナッツオイルは猫に脂肪肝症を起こしますので注意が必要です。


杉並区獣医師会のサイトからコピペでしょうか?その情報なら大元のソースはこちらだと思います。

Essential fatty acid requirements of cats : pathology of essential fatty acid deficiency.
MacDonald et al.(1984)

古い論文ですが、猫にココナッツオイルを含む食餌を与え続けたところ脂肪肝が発生したという内容になっています。full textが入手できなくて詳しいところはわからないのですが…。著者らはこの原因をココナッツオイルに含まれる中鎖脂肪酸の悪影響であるようだと結論づけています。

因果関係が証明されているわけではないと思いますが、こういう報告があるのは事実ですから、なるほど注意は必要ですよね。確かに。しかし杉並区獣医師会さんの文章はやや問題があると思います。「脂肪肝症を起こします」という断定表現。論文の著者が慎重に断定表現を避けているのに、自分で実験したわけでもない人間がそれを断定しちゃうのはマズイでしょ。。まあ注意喚起という意味ではそれでいいのかもしれませんけど、科学者としてはトンデモですねえ。

一方で、より最近の研究では問題ないとしているものもあるんですよ?

Effects of dietary medium-chain triglycerides on plasma lipids and lipoprotein distribution and food aversion in cats. Trevizan et al.(2010)

こちらの論文では猫に中鎖脂肪酸を多く含む食餌を与えたところ、血中中性脂肪の増加はみられたが基準値の範囲内であった。中鎖脂肪酸オイルは猫の代謝に有益であるかもしれず、機能性フード原料として供することができる、と結論づけています。

どっちが正しいんだ?と聞かれると現時点ではなんともいえません。必ずしも新しい論文が正しいとも限りませんので。もしかしたら状況によっては有害である可能性も否定はできませんからね。

ともかく、「使う必然性がないときには使わない」ということでいいんじゃないでしょうか?
それが「注意する」という言葉の意味だと私は思います。

alishara | URL | 2015-02-03(Tue)00:33 [編集]


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| | 2015-09-09(Wed)07:25 [編集]


Re: ココナッツオイル♪

石塚さん

こんにちは。ふたりとも元気ですか?

バレちゃいましたか(笑) なんでわかったんですかね??匿名なのに

手作りごはんやってますか?犬ごはんのことだったら何でも聞いてくださいね。
私もまだまだ知らないことも多いですけどね。

スクワレンというとサメ肝油ですか?
大丈夫かな・・魚の肝油はビタミンAやDを大量に含むものがあるので過剰摂取がちょっと心配ですけど。

またお話聞かせてくださいね。


alishara | URL | 2015-10-01(Thu)16:55 [編集]


ココナッツオイルの続きデス〜!

ご教示ありがとうございます。過剰摂取の心配をご指摘下さったのをキッカケに過剰摂取は飼い主である私自身が一番該当していたのでハッと思い、直後からサプリはどれもほぼ半分量に減らしました。それまでビタミンはたとえある程度の過剰摂取をしても流れて行ってくれるもの程度に呑気に考えていました(^_^;)

肝心なワンズは、スクワレンは厳密には2-3日おきにカプセルの数分の一づつに切ったものをそれぞれにあげてる感じです。お魚系特有の香りがするせいか、二人とも大好きです。

サプリのみならず、手作りご飯の栄養バランス、量共に運動での消費分も配慮し、更に注意を払って与えています(^○^)

最近は家庭菜園のハーブに凝っていてネット検索を駆使して、飼い主&わんず両方の食生活や飲み物にも楽しく取り入れてます!

飼い主とわんずの栄養を考えた季節の多種多様なお料理。メニューは基本、その日の気分ですが(笑)、なかなか楽しいものですね♪

ところでココナッツオイルと言えば最近、歯磨き粉代わりに出来るという記事を読みました。こちらは人間での話しでしたがワンズにも可能なものなのでしょうか?
ちょうど夏頃に購入した歯磨き粉(歯磨き終了後に毎晩ご褒美にあげてたら、すっかり日常化してしまいましたw 好きみたいです♡)
も切れる頃なので、今は次の歯磨き粉を考えてるところです♪迷ってる時が一番楽しかったりして…(((o(*゚▽゚*)o)))🎶笑

また色々教えて下さい〜〜

yumi🎶 | URL | 2015-11-11(Wed)06:45 [編集]


Re: ココナッツオイルの続きデス〜!

こんにちは。

ココナッツオイルを歯磨きにですか~。初めて聞きました(汗
オイルプリングっていうらしいですね。

調べてみたところ確かに歯垢の蓄積や歯肉炎を改善させるという論文がでていましたよ。

Niger Med J. 2015 Mar-Apr;56(2):143-7
Effect of coconut oil in plaque related gingivitis - A preliminary report.

ココナッツオイルの成分であるラウリン酸に殺菌効果があるそうです。
ココナッツオイル単独でなら試してみてもいいと思います。面白いですね。

ただ、ネットで調べてみたところ、ココナッツオイルを使用した人用の手作り歯磨き粉レシピには重曹や食塩を使用するものがありました。これは絶対にやめたほうがいいです。

人は歯を磨いた後で吐き出しますが、犬は飲んでしまうというのが大きな違いです。

重曹は炭酸水素ナトリウム、食塩は塩化ナトリウムですから、飲んでしまうとかなりのナトリウムを摂取することになってしまいます。また、重曹はアルカリなのでアルカローシス(血液がアルカリ性に傾く病的状態)を引き起こす可能性もありますからね。

私は歯磨き粉には大したこだわりはなくて、おいしければいいと思っています(笑)
歯磨き粉の成分云々よりはハブラシの物理的作用で歯垢を落とすことが大事だと思っていますので、ご参考までに。

alishara | URL | 2015-11-11(Wed)20:20 [編集]


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